かつて憧れた「かっこいい伝統工芸士」の道へ
変わらないために変わり続ける提案

熊野筆伝統工芸士片平游哲
片平游哲

かつて憧れた「かっこいい伝統工芸士」の道へ

変わらないために変わり続ける提案

Katahira Yutetsu

片平 游哲

伝統工芸士認定年月日:2013年2月25日

游哲の今

游哲氏が得意とする筆は10種類以上もの毛を混ぜ合わせて作る「兼毫(けんごう)」です。種類ごとの毛の特性を理解し、混ぜ合わせた時の弾力の変化を把握していなければ思った通りの筆になりません。楷書、行書、草書、近代詩……筆の価値は書くものに応じた墨跡が出せるかどうかで決まり、値段では表せないと游哲氏は考えます。

片平游哲
片平游哲

例えば高校生が授業で使う筆は、初心者向けに扱いやすいブレンドで作ります。かつてはブレンドに失敗し、どうやっても修正できず泣く泣く捨てたこともありましたが、今では修正できないような失敗はなくなりました。「毛のブレンドを考え、頭の中の理想に近付けていく過程が一番楽しい」と、やりがいを語ります。

游哲の過去

物づくりが好きで、自動車整備士の仕事に就いた游哲氏。母が筆作りに関わる仕事をしていた関係で、筆問屋の社長から営業の仕事に誘われました。そこで思い出したのが、かつて目にした伝統工芸士の姿です。小学校の講演で、同じ町内に全国に誇る伝統産業を守っている伝統工芸士がいることを知り「なんてかっこいいんだろう。いつか自分もなってみたい」と憧れました。

片平游哲
片平游哲

時間が経ち自分でもその夢を忘れていましたが、社長の誘いをきっかけに思い出し、筆作りの道に入りました。どちらかといえば手先は不器用だったので最初は苦労しましたが、作業を覚えること自体にはそれほど時間はかかりませんでした。今では筆作りに重要なものは、器用さよりもセンスだと感じています。

游哲の未来

游哲氏自身は試し書きをする程度ですが、父は書道の師範代です。使う人が身近にいることで「筆遣いを楽しんでもらえて、書く人の理想の線が出せる筆」を意識して追求しています。伝統工芸ではよく後継者の確保が課題とされますが、熊野筆にはまず市場の開拓が必要だと感じています。

片平游哲
片平游哲

販路があり収入が確保できれば後継者候補も出てくるはず。そのために自分たちがどのような思いやこだわりで筆を作っているのかを、エンドユーザーに伝える売り方や見せ方を提案しています。「伝統工芸を変えずに守り伝えるために、変わり続けることが必要なのではないでしょうか」。雅号の「游」の字には「形にとらわれない」という意味があり、そんな游哲氏の思いを表しています。

熊野筆 伝統工芸士

片平 游哲

片平 游哲 の制作した筆をオンラインショップにて販売しております。