解きながらわかる熊野筆
その5 解説

第二章 熊野筆のつくり方

解きながらわかる熊野筆その5

「穂首づくり」

【問題39】熊野筆は数多くの工程を経て作られます、筆まつりで歌われる小唄では筆づくり(穂首づくり)の工程をいくつと歌っているでしょう。

【答え】73工程

【解説】
野口雨情作詞の「筆まつり」で、次のように歌われています。
筆は七十 サッコリャサ
三度もかわる ハ、エッサカセ
咲いた紫陽花ただ七度 ソリャ
咲いた紫陽花 ハ、ヤントナ
ただ七度

【補足】
穂首を作るのに大きく分けて9 つの工程があります。これらの工程は「下仕事」「台仕事」と分類されます。
下仕事:工程① 選毛・毛組み 工程② 火のし、毛もみ 工程③ 毛そろえ 工程④ 逆毛・すれ毛取り 工程⑤ 寸切り 
台仕事:工程⑥ 練り混ぜ 工程⑦ 芯立て 工程⑧ 衣毛巻き 工程⑨ 糸締め

【問題40】下仕事 工程①  筆づくりの最初の工程はなんでしょう。

【答え】毛を選別し、組み合わせる作業

【解説】
筆づくりの最初の工程は毛を選別し、組み合わせる作業で、これを「選毛、毛組み」といいます。筆の種類によって、必要となる毛の種類は様々です。数多くの毛の中から必要な毛のみを選び、量を決めて組み合わせていく作業です。
同じ動物の毛の中にも、筆に使える良質な毛と、そうでないものがあります。毛の質は、その動物の性別や、毛の採れた季節や、体の場所によっても大きく異なります。
その中から長年の経験を頼りに、毛の良し悪しを選別していきます。この作業が筆の出来具合を左右するといっても過言ではない、重要な工程です。

【問題41】下仕事 工程②  次に「火のし、毛もみ」という作業をおこないます。毛もみは、毛を真っ直ぐに伸ばす以外にも重要な役割があります。それはなんでしょう。

【答え】毛の脂肪分を適度に抜く

【解説】
「火のし、毛もみ」という工程は「選毛」された毛に「灰」をまぶし、これに熱した「火のし」と呼ばれるアイロンを当てます。火のしをあてる時間や温度は毛の種類によって微妙に調整されます。火のしされた毛を熱が冷めないうちに素早く動物の革に巻き、毛を折らないように注意しながら丹念にもみ込みます。熱を含ませ、もみほぐすことで毛をまっすぐに伸ばし、動物の毛に含まれる脂肪分や汚れを取り除きます。
墨の含みを良くするためには、脂肪分を全て抜いてしまうと筆にならないので、どれだけ残すかが筆司のカンであり高度な技術です。

【問題42】「火のし、毛もみ」の作業で毛にまぶす「灰」は、ある特別な材料からできています。 この灰は何から作られているでしょう。

【答え】籾殻(もみがら)

【解説】
毛に籾殻の灰をまぶします。
灰をまぶした後、火のしをあててから、動物の革で毛を巻いて毛もみをします。

【問題43】灰をまぶし、火のしをあてた後、毛を巻く動物の革は、なんの革でしょう。

【答え】鹿

【解説】
「火のし、毛もみ」に使う灰の材料は籾殻、革は鹿の革です。
経済産業大臣指定「伝統的工芸品熊野筆」は、その認可の条件として製作技法や原材料にいくつかの規定があります。鹿革の規定はありませんが「火のし、毛もみ」で籾殻から作った灰を使うのは、この規定の一つです。

【問題44】工程③ 工程④ 「火のし、毛もみ」の後に行われる工程を「毛そろえ」といいます。この毛そろえとは何を意味するのでしょう。

【答え】毛に櫛をかけて、毛先をそろえる

【解説】
何度も櫛をかけて、毛の質を整えていきます。もんだ毛に櫛をかけて筆にならない綿毛を取り除いた後、少量ずつ毛を積み重ね、毛先をそろえていきます。これらの工程を「毛そろえ」といいます。
次に「逆毛・すれ毛取り」の工程に入ります。毛そろえした毛のうち、一握りくらいの毛を取り、完全に毛先側にそろえた後、半差し(はんさし)と呼ばれる小刀を使って、逆さになっている毛「逆毛」や、毛先がすれてなくなっている毛「すれ毛」などを指先の感覚を働かせて、感触だけで良い毛だけを時間をかけて徹底的に選りすぐります。

【問題45】経済産業大臣指定伝統的工芸品熊野筆の条件として「火のし、毛もみ」に籾殻(もみがら)で作った灰を使用しなければならないのと同様に、この「寸切り」の工程でもある道具を使わなくてはいけません。その道具とはどのようなものでしょう。

【答え】毛の長さを一定にするための定規

【解説】
経済産業大臣指定伝統的工芸品の場合、この工程に「寸木」と呼ばれる定規を使って長さを決め、はさみで毛を切ることとされています。

【補足】
工程⑤
「毛そろえ」を行い、逆毛、すれ毛を取り除いた次の工程を「寸切り」といいます。
「寸切り」は筆の先端から下部にかけての毛を一定の長さに切りそろえていく作業です。 

【問題46】台仕事 工程⑥ 次の工程を「練り混ぜ」といいます。「練り混ぜ」で使う糊は何から作られているでしょう。

【答え】海藻

【解説】
この糊を「ふのり」と呼びます。フノリ(布海苔)は、紅藻綱フノリ科フノリ属の海藻の総称です。

【補足】
寸切りした毛を、薄くのばし、何度も折り返してまんべんなく混ぜ合わせていきます。さらに残っている逆毛やすれ毛も取り除きながら、均一になるまで混ぜ合わせ、最後に糊を付ける工程です。
「混毛は、『練り混ぜ』によること」も、経済産業大臣指定伝統的工芸品熊野筆としての条件とされています。 

【問題47】台仕事 工程⑦ 練り混ぜの次の工程は、一本分にまとめた穂を「筒」に差し込んで、太さをそろえる作業です。さて、この筒状の道具をなんというでしょう。

【答え】こま

【解説】
この工程を「芯立て」といい、この筒は「こま」とよびます。芯立てにより、毛の集合体にすぎなかったものが初めて穂首になります。ここで、屋外で乾燥させた後、上質な毛を巻きつけます。

【問題48】台仕事 工程⑧  できあがった芯の外側に巻きつける上質な毛をなんというでしょう。

【答え】衣毛

【解説】
筆を美しく仕上げるために巻く上質な毛を「衣毛(ころもげ)」と呼びます。均一に巻くには、特に高度な技術が必要です。
この工程を「衣毛巻き」といいます。衣毛は、芯の練り混ぜとほぼ同じ工程をたどって作ったものです。 薄く延ばして乾いた芯に巻きつけて、さらに乾燥させます。
この工程で芯に巻く衣毛には、穂先を美しく見せる以外にも、芯の短い毛を外に出さないようにするといった役目もあり、筆の書き味を良くするために一役買っています。

【問題49】台仕事 工程⑨ この工程は穂首の根元を締めるので根締めともよばれますが、一般的には別の名前で呼ばれています。この工程を、一般的にはなんというでしょう。

【答え】糸締め

【解説】
この「糸締め」の工程で穂首が完成します。
「糸締めには、『麻糸』を使用すること」も、経済産業大臣指定伝統的工芸品熊野筆としての条件とされています。

【補足】
綺麗に衣毛を巻かれた穂首はさらに自然乾燥させます。次に乾燥させた穂首の根元を「麻糸」でくくります。毛の膠質(熱を加えるとタンパク質同士が粘着する性質)を利用して穂の根元を焼きごてで焼き固めると穂首は完成します。