解きながらわかる熊野筆
その8 解説

第三章 熊野筆のつくり方

解きながらわかる熊野筆その8

「雑学」その2

【問題65】世界一の大筆はどこに展示してあるでしょう。

【答え】筆の里工房

【解説】
「筆の里工房」は平成6 年9 月、熊野町にオープンしました。筆の歴史をはじめとして、筆から生まれる美術・工芸・遊びなど、筆の広がりの世界を見て・触れて・体験できる施設です。平成10 年には秋篠宮御夫妻が、平成16 年には小泉元首相が来館されたこともあります。
常設展示では長さ3.7 メートル、重さ400 キロを超える世界一の大筆が展示してあるほか、熊野の旧家を再現したセットの中で伝統工芸士による筆づくりの作業を見ることができます。また、ここでは実際に筆づくり体験をすることもでき、予約しておけば筆の軸に自分の名前を彫ってもらえます。

【問題66】筆の里工房の世界一の大筆(写真)に使われている毛の量はどのくらいでしょう。

【答え】馬の尾200頭分

【解説】
前の問題の解説にもあるようにこの大筆には馬の尾が用いられています。その量は200 頭分といわれています。

【問題67】筆の里工房の大筆の下には巨大な硯(すずり)の原石がおいてあります。これは硯の生産量全国1位の雄勝(おがつ)という町から寄贈されたものですが、この雄勝地区は何県にあるでしょう。

【答え】宮城県

【解説】
雄勝硯(おがつすずり)は応永の昔より名硯として賞美され、以来600 年の歴史と伝統を誇り、昔ながらの手づくりの製法により、丹念に彫り上げられています。
雄勝硯は熊野筆同様、昭和60 年5 月に通商産業大臣より国の伝統的工芸品の指定を受けました。
熊野町の筆の里工房のオープン(平成6 年9 月)には、筆の里工房のシンボルとも呼べる巨大筆の下に、硯の原料である「玄武岩」の巨石が雄勝町から寄贈され、現在も展示されています。世界一の大筆と一緒に展示されている姿は熊野と雄勝の絆を感じさせてくれます。
※雄勝町(おがつちょう)は、宮城県北東部にあった太平洋に面した町です。平成17年(2005 年)4 月1 日、市町村合併により石巻市の一部となりました。

【問題68】雄勝町(筆の里工房のオープン当時)から寄贈された硯石は、子どもの手のひらサイズの一般書道用の硯にすると何個分にあたるでしょう。

【答え】約4000個分

【解説】
この硯石の大きさは長さ2.4 メートル、幅1.1 メートル厚さ0.6メートル、重さ3 トンの巨石です。
一般書道用の硯にすると、実に約4000 個分に相当します。

【問題69】書道で欠かすことのできない「筆・墨・紙・硯」の名産地である4市町で、2 年に1 度、まつりが開催されています。この4市町の中で筆の町とされているのはもちろん熊野町ですが、このまつりをなんというでしょう。

【答え】文房四宝まつり

【解説】
古来中国では、文人が書斎で使用する文房具のうち、最も重要な「筆・墨・紙・硯」の4 つを「文房四宝(ぶんぼうしほう)」とよび、尊んできました。
「文房四宝」とは書道で欠かすことのできない「筆・墨・紙・硯」を指しますが、それぞれの日本の名産地が一堂に会して、伝統の技の実演や展示即売会を行います。これを「文房四宝まつり」といいます。

【問題70】「文房四宝まつり」を行っている「筆・墨・紙・硯」の産地は、「筆」は広島県熊野町、「硯」は宮城県石巻市、「紙」は鳥取県鳥取市です。では、「墨」の名産地としてあげられているのは次のどれでしょう。

【答え】三重県鈴鹿市

【解説】
「文房四宝まつり」を行っている産地の「筆・墨・紙・硯」は、どれもが生産量日本一というわけではありませんが、全て経済産業大臣から指定を受けた「伝統的工芸品」です。鳥取県鳥取市の因州和紙は、熊野筆と同じ昭和50 年、和紙として初めて伝統的工芸品の指定をうけた名品です。
練習問題67 で学習した宮城県石巻市の雄勝硯は昭和60 年に指定を受け、三重県鈴鹿市の鈴鹿墨は昭和55 年(1980 年)伝統的工芸品の指定を受けています。これは、墨として現在でも唯一のものです。ちなみに墨の産地としては奈良墨がシェアの9 割を誇るといわれ、数では遠く及びませんが、伝統的工芸品鈴鹿墨はその質の高さが全国的に評価されています。伝統的工芸品の価値が素晴らしいものであると改めて感じさせられます。

【問題71】墨の数え方は、ある食べ物と同様の言い方をします。その食べ物はなんでしょう。

【答え】豆腐

【解説】
墨の数を数える単位は「丁(ちょう)」で表わします。
5 個の墨は5 丁と言います。ちなみに墨の大きさを表すのも「1 丁型」という言い方をします。豆腐では「丁」だけを使いますが、墨は「挺」と書く場合もあります。

【問題72】書初めを行うのは何月何日でしょう。

【答え】1月2日

【解説】
書き初めは、年が明けて初めて毛筆で書や絵をかく行事で、通常は1 月2 日に行われます。もともとは宮中で行われていた儀式でしたが、江戸時代以降庶民にも広まったといわれています。

【問題73】筆にまつわることわざ問題その1 空海(くうかい)の筆にまつわることわざで有名な「弘法も筆の誤り」と同様の意味を持つのは、次のどれでしょう。

【答え】猿も木から落ちる

【解説】
空海(くうかい)は、平安時代初期の僧。弘法大師(こうぼうだいし)の諡号 (しごう)。真言宗の開祖で、中国より真言密教をもたらしました。能書家としても知られており、嵯峨天皇(さがてんのう)・橘逸勢(たちばなのはやなり)と共に日本三筆のひとりに数えられます。
空海は天皇からの勅命を得、大内裏応天門の額を書くことになりましたが、「応」の一番上の点を書き忘れてしまいました。空海は掲げられた額を降ろさずに筆を投げつけて書き直したといわれています。
現在残っているこのことわざの意味は「弘法大師のような筆の達人でも、時には書き損なうことがある」ということです。猿も木から落ちるとは、その道に長じた者でも、時には失敗をすることがあるというたとえであり、同様の意味と取れます。

【問題74】筆にまつわることわざ問題その2 空海の筆にまつわることわざでもう一つ有名な「弘法筆を選ばず」と同様の意味の、海外のことわざは次のうちどれでしょう。

【答え】The cunning mason works with any stone.

【解説】
「弘法筆を選ばず」とは、能書家の弘法大師はどんな筆であっても立派に書くことから「その道の名人や達人と呼ばれるような人は、道具や材料のことをとやかく言わず、見事に使いこなす」という意味で、下手な者が道具や材料のせいにするのを戒めた言葉です。
●He has long arms and a long tongue as well.の意味は「舌も長けりゃ手も長い」です。これは日本の「口も八丁手も八丁」に近い意味のことわざです。
●shoot Niagara. の意味は「ナイアガラの滝を下る」です。これは日本の「清水の舞台から飛び降りる」に近い意味のことわざです。
●The cunning mason works with any stone.の意味は「熟練した石工はどんな石でも仕事をする」なので「弘法筆を選ばず」と同様の意味となります。