熊野筆とは
熊野の暮らしとともに
熊野の筆作りは江戸時代の末期、当時の熊野町民が農閑期に近畿地方に出稼ぎに出て、その帰りに奈良地方から仕入れた筆や墨を売り始めたことがきっかけで始まったといわれています。彼らは歴史ある筆の産地・奈良の職人から筆作りを教わり、広島藩が工芸を推奨したこともあって、盛んに筆を作るようになりました。
子どもたちが遊ぶ声に混ざりどこからともなく響いてくる、とんとんと軽快な返しを打つ音。八百屋に行けば、野菜の傍らに当たり前のように並ぶ「ふのり」。今ではあまり見られなくなりましたが、熊野にはつい数十年前まで、こうした光景が当たり前のように広がっていました。
筆という道具に「日常的な筆記用具」としての役割はなくなりつつありますが、どの時代になっても芸術作品として優れた書を書き、絵を描くには、表現を下支えする筆が欠かせません。優れた書家ほど筆の大切さを理解しており、自分の書体に合った高品質の筆を求めます。
熊野では今なお約23,000人の人口のうち1割ほど(約2,000人:令和4年度)が筆産業に携わっており、国内生産量は日本一です。熊野の暮らしの中には、江戸の昔から現代に至るまで、あちこちに熊野筆が自然に息づいているのです。
熊野筆とは
熊野筆とは
「熊野筆®」は次のような一定の基準を満たす、確かな品質の筆です。筆をお買い求めの際は、ぜひ熊野筆をお選びください。
熊野筆® 商標登録 第4827487号
熊野筆事業協同組合(以下当組合)は平成16年(2004年)12月、国の団体商標を取得しました。そのため、当組合と使用契約を締結した事業者は各種広告宣伝ツールに「熊野筆®」の名称を使用できます。
熊野筆は、下記の規定により製造された書筆、画筆、化粧筆、刷毛とします。
- 経済産業大臣指定の伝統的工芸品熊野筆
- それ以外の筆類で、次の基準を満たすもの
- 筆において一番大切な機能部分であり命である穂首が、熊野で製造されていること
- 使用する原毛は獣毛、化繊毛、植物繊維、羽、胎毛等であること
- 製造事業所が熊野町内にあり、外注先も町内および周辺地域であること
- これらを満たす書筆、日本画筆、洋画筆、化粧筆、刷毛であること
年間行事
当組合は、「熊野筆®」とそれを取り巻く熊野町の文化の振興を図るため、毎年次のような行事を主催したり、参加したりしています。
筆まつり(秋分の日)
熊野町商工会を中心とした各種団体からなる実行委員が開催する、熊野町最大のイベントです。昭和10年(1935年)から続く歴史あるイベントで、当組合も実行委員会に参画しており、毎年5万人ほどが来場して町全体が賑わいます。特別価格で筆が手に入る「筆の市」やおよそ20畳の特別な布に巨大な筆で書を書き上げる「大作席書(たいさくせきしょ)」、筆作り体験、硯彫り体験、紙すき体験など、筆や書道にまつわる多様なコンテンツをお楽しみいただけます。
バーチャル筆まつり
2020年から21年にかけ、コロナ禍の影響で通常の筆まつり実施が難しくなったことから、当組合の青年部が中心となり、商工会や町役場の有志と協力して開催しました。「多くの人が楽しみにしていたイベントを、何とか実現させたい」。そんな思いから始まった取り組みで、SNS上で各種映像コンテンツを流したり、期間限定のオンラインショップで「筆の市」を開催したりと熊野筆の文化を世界中に発信。今後もリアル開催と併行するか検討中です。
筆供養
役目を終えた筆に感謝するとともに、筆作りのために毛を提供してくれた動物たちを供養し、書道の上達を願って浄火の中に使い終えた筆を投じる祭典です。熊野で生まれた筆たちは全国各地で活躍し、その役目を終えると再び熊野に帰り永代供養されるのです。筆まつりに合わせて開催されます。筆塚前で榊山神社の神主が祝詞を上げ、町内の児童・生徒代表が筆への感謝の言葉を伝えます。
筆の日(春分の日)
熊野町では春分の日を町条例で「筆の日」と定めており、その日を含む1週間を筆の日週間として筆に関わるさまざまなイベントを開催します。当組合は筆の日実行委員会の中心となり、イベントを通して筆の魅力を全国に発信し、筆文化の振興と筆産業の発展を図っています。筆を使ったアート作品の展示や書道の展覧会、メイクアートやちびっこギャラリーなど、さまざまな世代の方に楽しんでいただけるイベントです。
全国書画展覧会
昭和6年(1931年)に全国書き方展覧会として始まった伝統ある展覧会で、全国から作品が寄せられます。書写や書道、図画工作、美術教育の振興を通じて児童生徒の表現力や鑑賞の力を伸ばし、伝統文化に対する理解を深めることを目指しています。当組合青年部を中心とした実行委員会が開催します。