「伝統工芸士の名に恥じないものを」という心意気が
筆司を一段階上へ

熊野筆伝統工芸士赤翼洞水

「伝統工芸士の名に恥じないものを」という心意気が

筆司を一段階上へ

Akahane Dosui

伝統工芸士認定年月日:1994年2月25日

赤翼洞水

洞水の今

「本当の筆の良さは、作って1年や2年でわかるものじゃないんですよ」。

そう話す二代目洞水氏の得意とする羊毛筆は、何十年も使われることがある、いわば「一生もの」の筆です。筆司だった祖父、父(初代洞水)から工房を受け継ぎ、「洞水といえば羊毛筆」の評価に応える筆を作っています。

赤翼洞水
赤翼洞水

時代が進み使い捨ての筆が普及していますが、洞水氏のもとには長く使った筆の修理の依頼がよく入ります。「直しても使いたいと思ってもらえるのは、職人冥利(みょうり)に尽きますね」。温暖化で原毛の質が変わり入荷しづらくなっているので、昔と全く同じものはなかなかできませんが、書家の要望に応えるため工夫を凝らしています。

洞水の過去

先代洞水は熊野筆を全国に広めようと太宰府天満宮や伊勢神宮などに自ら筆を奉納した人で、伝統工芸士になってからはますます実演などで全国を奔走(ほんそう)し、毛と名がつくものは何でも筆にしました。パンダの毛の筆を製作したこともあります。10人ほどの弟子を抱える工房でしたが、二代目洞水氏は高校卒業後に一般企業に就職。2年で退職し、工房に入りました。

赤翼洞水
赤翼洞水

当初は座っていることが辛く感じましたが、幼少期から筆作りを見てきた洞水氏はやがて作業を修得。さらに伝統工芸士の認定を受けてからは、「その名に恥じないものを作りたい」という意志が強くなり、品質もぐっと良くなりました。子どもの頃から洞水氏の姿を見てきた娘も、今では一緒に筆作りをしています。

洞水の未来

「伝統工芸士は、全員が熊野筆の代表者です」と話す洞水氏。熊野筆の名を全国に広めるため、テレビやラジオでのPR活動にも積極的に取り組んできました。どこに行って何を見ても筆作りの糧とし、「筆鬼(ひっき)」を座右の銘とした先代に習い、鳥の羽や稲藁といった獣毛以外で作る特殊筆の製作にも意欲的です。

赤翼洞水
赤翼洞水

最初は嫌々始めましたが、どこまででも品質を追求し、様々な素材に挑戦できる筆作りに、今では楽しみと生きがいを感じています。父が広めた胎毛筆は全国的に普及し、時おり「母子三代この工房で作ってもらった」という方からも注文が入るようになりました。「人がやっていないことをして、筆の可能性を広げたい」。伝統と革新の両立を図っています。

※胎毛筆(たいもうふで):赤ちゃんが生まれて最初に切る髪で作る筆

熊野筆 伝統工芸士

赤翼 洞水

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